量子精密測定

PRECISION MEASUREMENT

研究概要

OUTLINE

精密計測による新物理探索

このグループでは極低温イッテルビウム(Yb)原子の量子状態を精密に計測することで標準模型を超える物理(新物理)を探索します。 
今日までに素粒子物理学は高エネルギー衝突型加速器を用いて粒子を直接生成することで素粒子の性質を次々に明らかにし、標準模型と呼ばれる枠組みが確立されました。一方で、ダークマターの正体や物質・反物質の非対称性などを説明するためには標準模型を超える新物理を考える必要があり、これは素粒子物理学における重要な課題です。 

近年、高エネルギー実験とは相補的なアプローチとして、原子・分子・イオンといった低エネルギー量子系を対象とした精密計測が注目されています[1]。近年の量子技術の発展により量子状態の制御・計測が高精度に行うことが可能となりました。新物理に対して感度を持つ特定の量子系はセンサーとして機能するので、精密計測を通して新物理の間接的なプローブが可能となります。 
以下は現在取り組んでいる研究テーマです。

(01)

ISOTOPE SHIFTS
AND NEW PARTICLES

精密同位体シフト測定による新粒子探索

本研究では光学遷移の同位体シフトを精密に測定することで、電⼦・中性⼦間に⼒を媒介する新粒⼦を探索します。異なる電子状態間の光学遷移周波数は同位体によってわずかに異なり、これを同位体シフトと呼びます。この同位体シフトにはキングの線形性という特性があり、異なる二つの光学遷移の同位体シフトを二次元平面にプロットするとそれらは直線上に並ぶという性質です。しかし、もし電子と中性子の間に力を媒介する新粒子が存在すると、この線形性は破れます。したがって、キング線形性の破れを高精度に検証することにより、新粒子の存在を間接的に探ることが可能となります[2]。さらに、三つ以上の光学遷移を用いることで、より高次元の空間における線形性を検証することができます。これにより、標準模型の範囲内で生じる高次の効果を差し引いた新物理の探索が可能となります。Yb原子は五種類の偶核安定同位体をもち、キングの線形性の検証に適しています。また、非常に狭線幅な光学遷移が複数存在し、同位体シフトを精密に計測することが可能です。
当研究室ではこれまでにYb原子の超狭線幅光学遷移1S0↔3P0および1S0↔(4f)135d(6s)2 (J = 2)の精密同位体シフト測定を行い、電⼦・中性⼦と新粒子との間の結合定数に制限を与えました[3,4]。特に1S0↔(4f)135d(6s)2 (J = 2)については基底状態1S0からの直接励起に当研究室が世界で初めて成功し、光トラップ中の精密分光で重要な要素である魔法波長(光学遷移に関わる二状態に対して同じトラップ深さを与える波長)の発見にも成功しました[5]。

現在、さらなる高次効果まで考慮するために、不安定同位体である166Ybを用いて同様の実験を行うことを計画しており、加速器を用いて生成する不安定Yb同位体をレーザー冷却するための技術開発も推進しています。
この研究は、まだ誰も観測したことがない粒子や相互作用を間接的に探索するものです。ご興味ある方は一般向けの日本語解説記事もご覧ください[6,7]。 

(02)

LORENTZ
INVARIANCE TESTS

ローレンツ不変性の検証

ローレンツ不変性とは物理法則が宇宙における方向に依存しないことを指し、現代物理学の基本的な要請です。もしローレンツ不変性の破れが見つかれば、それは直ちに標準模型を超える新物理を意味します。このような新物理を考慮したモデル(拡張標準模型)によると、電子・光子セクターのローレンツ不変性の破れはテンソルシフトとして原子のエネルギー準位を変化させます[8]。本研究では原子のエネルギー準位間隔を精密に測定し、その方向依存性を調べることでローレンツ不変性を検証します。具体的には、ローレンツ不変性の破れに対して感度が高いと理論的に計算されているYbの準安定状態(4f)135d(6s)2 (J = 2)の磁気副準位間隔を精密測定します(理論計算[9])。この研究は「この宇宙に特別な方向はあるか」という根源的な問いの探求です。  

(03)

NUCLEAR MQM SEARCH

原子核の磁気四重極モーメントの探索

現在の宇宙で物質と反物質の量がアンバランスになってしまったのはなぜでしょうか?この謎は未だに解明されていないのですが、素粒子間の相互作用における強いCP対称性の破れ(もしくはCPT定理を仮定すれば時間反転対称性の破れ)が物質優勢宇宙の形成に関連している可能性があることが指摘されています(サハロフの三条件のうちの一つ)。
このような背景のもと様々な実験系でCP対称性の破れの探索が行われているのですが、現在に至るまで物質優勢宇宙を説明できるほどの破れは発見されていません。私たちは新たなプローブとして、原子核の磁気四重極モーメント(magnetic quadrupole moment, MQM)に着目しました。MQMは時間反転対称性とパリティ対称性を破る物理量で、原子の中の荷電子の軌道運動により生じた「磁場勾配」との相互作用により、電場及び磁場を印加したときの核スピンのエネルギー準位のずれとして現れます。また、球対称から変形した原子核(変形核)はMQMに対して高い感度を持つと理論的に指摘されています[10]。私たちは変形核をもつ173Ybを大きな「磁場勾配」をもつと理論的に計算されている準安定な電子状態3P2に用意し、量子化軸に平行または反平行な電場を印加した場合のスピン歳差周波数の差を測定することでMQMを探索します(実験提案[11])。 

(04)

RYDBERG ATOMS FOR
DARK MATTER SEARCH

Rydberg原子を用いたダークマターの探索 

この宇宙の構成要素のうち通常の(直接観測されている)物質は約5%しかなく、約69%がダークエネルギー、約26%がダークマターと言われています。ダークマターは電磁波による観測では見ることができませんが、銀河の回転速度分布の観測結果などから電磁波では観測できないが重力を感じる物質として存在することがわかっています。 
ダークマターの候補はいくつかあるのですが、私たちは(標準模型で記述される通常の)光とのみ相互作用するダークフォトンに着目しています。私たちはダークフォトンの量子センサーとしてRydberg状態の原子を用いることを計画しています。Rydberg状態とは外殻電子が非常に高い主量子数の軌道にある励起状態のことです。原子核から遠く離れていることから、電気双極子モーメントが大きく、外部振動電場に極めて敏感であるため、ダークフォトンに起因する微小な振動電場を感知するセンサーとして機能すると期待されています。

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